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2009年08月14日

●星守る犬/村上たかし(双葉社)

装丁を手がけた作品ではありませんが、すごく良い作品なので紹介します。

著者の村上さんとは仕事や飲みの席で何度かご一緒していて、
著作「ぱじ」「老人の性」などの作品を装丁させていただいています。

というわけで、村上さんお元気ですか?

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「星守る犬」村上たかし

この作品の著者、村上たかし先生と言えば、
「ナマケモノが見てた」を代表とするようなギャグ作品が有名で、
基本的にギャグ漫画家さんなのですが、
この作品はなんと著者初のストーリー作品なのです。
「漫画アクション」に前後編で掲載されて読んだ時、
あまりにも素晴らしくて感動しました。
やはり反響も大きかったようで、その後その作品の番外編を描かれ、
コミックスには先の前後編と合わせたものが収録されています。

村上さんの作品を読むと、いつもほんとうまいなぁと感心させられます。
初めて村上作品に出会ったのは18歳くらいの頃。
※こうして村上作品と書くとまるで村上春樹のように見えるがそうではない。
デビュー作の「ナマケモノが見てた」という動物が主人公のギャグ漫画でした。
タイトルにはナマケモノと書いてありますが、
ナマケモノはほとんど出てこなかったような気がします。
何でもありのギャグ漫画において、
現実世界の動物の正しい常識や知識を作品に持ち込み、
その空想と現実の落差の激しさや可笑しさを笑うというギャグの手法に、
当時、ただの読者だった私はその面白さに衝撃を受けました。

その手法はさらに進化をとげ、
ほんとだったらちょっとこれは笑っちゃいかんだろうと思われる日常の事柄も、
すごくギリギリのラインで切り取って笑いに昇華させておられます。
しかも笑って読んでたら、なんだかいつの間にかちょっといい話になっていて、
うっかりホロリとさせられたりと、いい意味で予想を裏切られる。
笑いあり、涙あり…。
ああ、この感じ、なんか知ってる!
これって、村上さんの出身地でもある大阪名物の吉本新喜劇に似ている。
5年ほど前にヤングジャンプで連載されていた、
両親を無くした小さな女の子がおじいちゃんに引き取られ、
パパがわりのおじいちゃんとの、
楽しくもささやかなる二人暮らしを描いた「ぱじ」は、
その集大成的な作品だと思います。※「ぱじ」1~9巻好評発売中

そしてそんな作風をさらに推し進め、
自然と導かれるように描かれるべくして描かれた著者初のストーリー作品が、
この「星守る犬」という作品なのではないか思います。

ある日、捨てられた子犬は女の子に拾われ、
どこにでもあるような一般的なサラリーマン家庭に迎え入れられます。
一家の大黒柱であるお父さんとその家族との楽しく寂しく繰り返す日常の日々。
そして月日は無情に流れ、ある日、犬はお父さんと自動車で旅に出ます。
ずっとずっと南を目指して…。

登場人物の人生がすごくリアルに描かれていて、
帯の重松清さんの言葉通り、せつなくて、嬉しくて、泣けます。
一見マジメそうなストーリー漫画のように見えますが、
やはりそこはギャグ作家、
ところどころに人間のダメさ加減がうまい具合に描かれていて、
クスリと笑えるところもあります。
男の子との別れのシーンではちょっとツボに入って爆笑してしまいました。
※ギャグ漫画ではありません。ほんとにほんとにマジメなお話です。

お父さんと犬の愛あふれる心の交流を、
すごく楽しく、すごく優しく、すごく切なく描いた作品。

かなりのオススメです。
ぜひ読んでみてください!

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